作品のタイトルに二重の意味を持たせる型
タイトルは、読者が2回読む唯一の場所です。
最初は「これから読むもの」として。 最後は「読み終わったもの」として。
この2回のあいだに、意味を変えられます。 本文の途中では使えない、タイトル固有の性質です。
タイトルが有利な理由
本文中のダブルミーニング … 一度しか読まれない。気づかなければそれで終わり
タイトル … 必ず2回読まれる。1回目と2回目で読み手の知識が違う
1回目は情報がゼロ、2回目は全部知っています。 この差を利用できるのは、タイトルと、あとは冒頭の一文くらいしかありません。
型1:具体 → 抽象
1回目は物や場所の名前に見え、2回目は主題の名前だと分かる形です。
(自作例)「三番目の椅子」
1回目 … 家具の話か、席次の話か
2回目 … その人物の家庭内での位置のこと
いちばん作りやすく、いちばん多い型です。 物の名前を出しておいて、それが最後に比喩だったと分かる形になります。
型2:主語が変わる
1回目と2回目で、タイトルが指している人物が入れ替わります。
(自作例)「彼女が黙っていた理由」
1回目 … 主人公の相手のこと
2回目 … 語り手自身のこと(読み終わると誰の話か変わる)
叙述の仕掛けと相性がよい型です。 ただし本文の設計と一体でないと成立しないので、 タイトルだけ後から付けることができない型でもあります。
型3:時制が動く
1回目は過去の出来事、2回目はこれから起きることに見えます。
(自作例)「最後の夏休み」
1回目 … 学生時代の回想
2回目 … これから来る夏が最後になる、という予告
怖いダブルミーニングで扱った反転の型と、同じ構造です。
型4:肯定 ↔ 否定
1回目は前向きに読め、2回目は逆の意味になります(またはその逆)。
(自作例)「よくやった」
1回目 … 労いの言葉
2回目 … 皮肉、または諦め
いちばん難しい型です。 反転の落差が大きいぶん、本文がそれを支えきれないと「そう読ませたいだけ」に見えてしまいます。
タイトルで守るべき3点
1. 1回目の読みだけで、内容が想像できること
✕ 2回目でないと意味が分からないタイトル
→ 読まれない。タイトルの第一の仕事は【読む理由を作ること】
◎ 1回目でも十分に興味を引き、2回目で意味が変わる
ダブルミーニングを優先してタイトルの機能を落とすのは、本末転倒です。
2. 検索される形になっていること
タイトルは指名検索の対象になります。
・読みが一つに決まるか(電話や口頭で伝えられるか)
・他の作品と紛れない固有性があるか
3. 説明しないこと
✕ あとがきや宣伝文で「タイトルには二つの意味があって──」
→ 2回目の発見を、読者から奪う行為になる
気づかない読者がいてもかまいません。 気づいた読者だけが受け取るものとして置いておきます。
実務での作り方
① 本文を先に完成させる
→ タイトルから作ると、型2・型3は成立しない
② 読み終わった読者が【何を知っているか】を書き出す
③ その知識があると意味が変わる語を、本文の中から探す
④ その語を使って、1回目の読みでも成立するタイトルを作る
**③が肝心です。**タイトルに使う語は、本文の中に既にある語から選びます。 外から持ってきた語は、2回目に意味が変わりません。
まとめ
- タイトルは必ず2回読まれる。1回目と2回目で読み手の知識が違う
- 型は4つ。具体→抽象/主語が変わる/時制が動く/肯定↔否定
- **1回目の読みだけで読む理由が作れること。**ここを落としたら本末転倒
- 読みが一つに決まること(指名検索されるため)
- **説明しない。**2回目の発見を読者から奪わない
- 作り方は本文が先。タイトルに使う語は本文の中から選ぶ