俳句・短歌・川柳に仕込まれた二重の意味
字数が少ないほど、一語に複数の仕事をさせるしかなくなります。
短詩型がダブルミーニングと相性がいいのは、この一点によります。 ただし三つの詩型で、掛けの働き方が違います。
三つの詩型と、掛けの役割
| 詩型 | 音数 | 掛けの主な役割 |
|---|---|---|
| 短歌(和歌) | 31音 | 情景と心情を重ねる(掛詞の本場) |
| 俳句 | 17音 | 季語と主題を接続する |
| 川柳 | 17音 | 落とす(可笑しみ・皮肉) |
同じ「二重の意味」でも、目指す先が違います。
短歌:情景と心情を重ねる
掛詞の本領は、ここにあります。
花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに (百人一首 9番・小野小町)
- ふる … 経る(時が過ぎる)/降る(雨が降る)
- ながめ … 眺め(物思い)/長雨
二つの掛詞が、一つの絵を作っています。 花が色あせる情景と、自分が老いていく心情が、同じ言葉の上で重なります。
現代の短歌でも、この構造は生きています。 31音のなかで情景と心情の両方を成立させるには、重ねるのが最も効率がよいからです。
俳句:季語と主題を接続する
俳句には季語という必須の要素があります。 この季語と、言いたいことをどう繋ぐかが問題になります。
✕ 季語と主題が無関係に並んでいる
→ 「季語を入れただけ」になる
◎ 季語が主題と二重に読める
→ 情景としても、心情としても機能する
(自作例)
「灯を消して なお明るしよ 花の闇」
→ 「明るし」= 物理的な明るさ/心の状態
→ 「花の闇」= 夜桜の情景/見えないものへの感覚
俳句は17音しかないので、掛けは1箇所が限界です。 2箇所掛けると、句が説明的になって崩れてしまいます。
川柳:落とすために使う
川柳は季語が不要で、可笑しみや皮肉を扱います。 掛けの使い方も変わってきます。
短歌・俳句 … 重ねて【深くする】
川柳 … 重ねて【ひっくり返す】
これは怖いダブルミーニングで扱った反転の型と同じ構造です。 違うのは、反転の先が恐怖ではなく可笑しみであることです。
(自作例)
「よく効くと 言われた薬 効きすぎて」
→ 「効く」が、期待どおり/期待を超えて悪い方向、の両方に読める
川柳の掛けは、最後の一句で効かせます。 コツの「文末に置く」が、最も素直に当てはまる詩型です。
短詩型で掛けるときの共通ルール
① 説明を足さない
→ 17音・31音に説明を入れる余地は無い。入れた時点で破綻する
② 掛けは1箇所
→ 2箇所掛けられるのは和歌の熟練だけ。現代の短詩では1箇所
③ 一つ目の読みだけで、句として完成していること
→ これは短詩型でも変わらない(→ うまいと感じる条件)
④ 季語を掛けに使うときは、季語としての機能を壊さない(俳句)
なぜ短詩型に多いのか
制約が技法を必要にするからです。
散文 … 字数の制約が無い → 2つのことは2文で書ける → 掛ける必要が無い
短詩 … 字数が決まっている → 1語に2つの仕事をさせるしかない
効果で「字数の節約」を第一の効果に挙げたのは、この構造によります。
現代の散文でダブルミーニングが難しく感じられるのは、 そもそも必要に迫られていないからでもあります。 必要でないものを無理に入れようとすると、技巧が浮いてしまいます。
まとめ
- 字数が少ないほど、一語に複数の仕事をさせるしかなくなる
- 短歌は情景と心情を重ねる(掛詞の本場)
- 俳句は季語と主題を接続する。掛けは1箇所が限界
- 川柳は重ねてひっくり返す。怖い掛けと同じ反転の構造
- 共通ルールは4つ。とくに説明を足さない(音数に余地が無い)
- 短詩型に多いのは、制約が技法を必要にするから。散文では必要に迫られない